「アルバート・アイラー」−本物の音とは焼肉を食ってから聴くものと見つけたり

plagio2004-09-26


id:hibikyさんのこの記事に大いに触発されてしまったので分不相応ということを承知の上、おいらも書いてみよう。

そもそもおいらは、胡散臭いもの、お馬鹿なもの、ダサすぎて呆れてしまうものなどに妙に惹かれて「カッコイイ!」と本気で思ってしまう悲しい性をもつ人なため、「本物」とは数万光年離れたポジションにいるのだが、こんなおいらでも稀にモノホンを眼前にしてガツンとやられた上、全面降伏、尻尾フリフリしてしまうことがある。

そのひとつがアルバート・アイラーの「Goin’ Home」

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グリニッジヴィレッジ』や『Spiritual Unity』など、一般的に知名度の高い作品も涙が出るほどの素晴らしいのだが、このアルバム(編集盤?)はそれらとは完璧に一線を画す。ブルーズやニューオリンズサウンドなど(「ダウン・バイ・ザ・リヴァーサイド」や「聖者が街にやってくる」などを演ってる)、彼のルーツと思われる曲を集めた黒人霊歌集なのだ。

アバンギャルド・ジャズ、フリー・ジャズの文脈やたらとで語られる彼なのだが、もう孤高の域を軽ーく通り越して宇宙までイっちゃった彼(このアルバムのサックスの音の出だしを聴くだけでそれは理解できるはず)をオーネット・コールマン*1なんぞのちんけな軟弱野郎と一緒にすんじゃねぇ。ジャンルわけで音を聴く輩には一生かかっても理解できねぇいだろうが、これはジャズとかアバンギャルドとかジャンルを完全に意味のないものにしてしまっているのさ。敢えてジャンルで分けるならばこれは紛れもなく「民謡」だ。どうだ。かっこ悪いだろ。ジャズがどーとかいってる連中よ。金沢明子から出直しやがれ。

だいたいなぁ、音楽聴いたり、映画観たりすることなんざ果てしなくネガティブでとてつもなくダサい行為なんだよ。そのネガティブさやカッコ悪さを引き受ける、背負う度胸のないヤツなんて即刻やめちまえ。こちとらCD、ビデオが終わるのと同時に再び虚無がやってくることを知りながら、それでも救いとひと時の希望と至福を求めて観る・聴くを繰り返してしまう廃人なんだよ。 
まぁそういう意味では映画・音楽なんてつくづく功罪だと思うぜ。Drugよりもタチが悪ぃや。

ちょっと脱線してしまったが、このアルバムは癒しなどとは正反対の、疲れる音楽だ。こいつと真摯に対峙するには、こちらもそれなりの準備をして挑む必要がある。具体的には焼肉(または辛子ニンニクをいっぱい入れた天下一品)を食った後、腹筋・腕立て20回づつが最低ライン。逆に言えばそれぐらい体力があるときに聞かないと魂を持っていかれて腑抜けになること間違いなし。婦女子にはちょいとキツイ一枚だな。

ジャズの即興演奏というのは、私にとって、無意識の中に自己の中に介入された痛みを介して自己の感情を表出することです。つまり気づかぬうちに内面に生じた苦痛によって感情が突然サックスのバルブを押し開げて音として飛び出してくる−といった衝動がそれです。
「ゴーイン・ホーム」のライナーより。アイラー自身の言葉。

*1:いやオーネットも悪くないと思うのですが、いや寧ろ好きなのですが、アイラーとは比較すべきでないでしょう。